隠し事はいけません
皆さま、うそをついたことはありますか?
誰でも一生に一度はうそをつきますが、うそにはついて良いウソと悪いウソがあります。
ついても良いウソといえば、相手を傷つけないためのウソです。
何もかもしっかり話さなければいけないわけではありません。
相手の心を読み取りながら、これは隠した方が傷つかないと感じるウソは、良いウソです。
決して、「自己言い訳」でついて良いウソはありませんよ。
それは悪いウソですから。
悪いウソは時に「隠ぺい」と呼ばれます。
医療機関ではそんな、「隠ぺい」というウソをつく人間が少なからず居ます。
ウソをつくと、自分に返ってきます。
自分で自分の首を絞めることになってしまうのです。
アクシデントを無かったことに
医療事故は時に予想もしていないのに起こってしまうものと、予測できるのに防ぐことができなかった事故があります。
治療とは人間が行うものなのですから、完璧ではありません。
どこかで必ず、ミスや事故が起こってしまいます。
そうならないように、機械メンテナンスを行い、集中力や責任感を持って仕事をし、人の限界を超えないように労働基準法で守られた範囲内で働きます。
もし医療界で事故が発生した場合は、速やかに生命維持に全力を尽くして、発生した事故について詳しく報告し、社会やご家族にも報告ししなければいけません。
そして起こってしまった医療事故の原因を突き止め、もう二度と起こらないように改善していかなければいけません。
それが、医療の安全と信頼を守るための基本というものです。
この基本を隠ぺいした事件があります。
埼玉県で起こった昨年の事故です。
特別養護老人ホームで薬を取り違えて与えてしまうというミスがあり、2人が死亡していました。
これを同施設内では県へ報告しなければいけない事件が合計8回起こっていたにもかかわらず、すべて隠ぺいしていました。
遺族の通報でようやく立ち入り調査が行われ、行政指導となりました。
施設は、「事故を隠すために報告を怠った」と認めたうえで遺族や世間に記者会見にて謝罪。
この事故は、なぜ起こり、なぜ隠されたのでしょうか。
アクシデントを隠ぺいする背景
施設長によると、当時女性入所者(88才)に対して、介護職員が別の入所者用の薬を渡したそうです。
女性は薬を飲んで、副作用の「嘔吐」が原因で誤嚥性肺炎を起こし、3日後に死亡。
介護職員は薬を置いた別の入居者の食膳を間違って女性に渡したそうです。
同じ月に、いなりずしを食べた男性入所者がのどにつまらせて、誤嚥性肺炎で亡くなられています。
男性にはいなりではなく、違う食事を提供することになっており、こちらも職員のミスです。
その他にあった事故は、転倒して腰の骨骨折。
入浴中に意識を失い救急搬送。
職員が量を間違い大量の薬を飲ませる。
など県への報告義務のある事故が少なからず6件起こっていましたが、合計8つとも報告していませんでした。
この施設では、入所者90名とショートステイ10名の合計100名の方が利用されています。
これだけ立て続けに起こり、しかも報告していないとなると「それくらいの事故、よくあるのではないか」と思われる方もいらっしゃるでしょう。
医療・福祉に携わる人間ならだれでもこう答えると思います。
「これだけ大きな事故がそう頻繁に起こるわけがない」と。
介護や医療では、時に予測しない出来事が起こります。
ですが、ほとんどの場合「マニュアル」があります。
実際の現場ではマニュアル通りに行かないことも多くありますが、「○○さんにはこの薬」と決められていて、1日3回、毎日繰り返して行っている業務を、果たして何度も間違えるものでしょうか。
介護や医療の質が下がっているといわれるのは、こういった事故を明るみにせず隠ぺいするやましい心があるからなのではないでしょうか。
介護領域だけの話ではありませんよ。
アクシデントなんてたびたび起こります。
ですが、それは報告するからこそ改善の余地があるのです。
皆さんは、もし自分が事故やトラブルを起こしてしまったらどうしますか?
それが、自分以外の他人の命、時には複数人にも影響を及ぼしてしまいかねません。
隠ぺいは自分で自分の首を絞めるだけ。
やましい気持ちを持った医療従事者がいなくなることを、心から願います。