救急車利用のモラル
救急車はどんな時に利用するのでしょうか。
皆さまは、実際に救急車を呼ぶ場面に遭遇したことはありますか?
>>神奈川県川崎市の救急車出動件数の6割は入院の必要無い軽症
救急車の出動が必要な状況と言えば、重症患者で搬送中にも治療やケアを行わなければ命が危ないという方に対して出動します。
特に、緊急性が高く大量に出血していたり、車で移動するのは危ないとき、重症なのに周りに人がいない、そんな場合で救急車を利用するのが正しいモラルです。
最近では、「深爪をして血がでている」「ちょっとめまいがする」「歯が痛い」「階段から転んですねに青あざができている」そんな場合でも救急車を出動させる、モラルのない人間が増えています。
多くの方は、本当に非常時以外は救急車など呼びません。
たとえば、爪を深く切りすぎて血が出たという方が救急車を呼び、出動したとしましょう。
そこで、1分後に駅で男性が倒れている、心筋梗塞だと出動要請があったとしましょう。
最低2キロ程度は消防署の位置が離れていますから、きっと倒れている男性のところに、もう1つさきにある消防署から救急車が出動したとしても、到着は5分程度遅れることになります。
3分で到着するところを、8分かかってしまうのです。
信号や渋滞なども、救急車は関係ありませんからね。
もしその倒れている男性が亡くなられてしまったら。
亡くなったのは誰が原因でしょうか。
10人いれば半数以上の方がこう答えると思います。
「爪を深く切りすぎたからと言って救急車を呼んだ人のせいだ」と。
モラルがないのはだれ?
利用する側のモラルも心配ですが、実は救急隊員にもモラルがない方がいらっしゃるようです。
こんな事件があります。
部下が昇任試験に遅刻しないように、必要のない作業を命じて救急車を出動できないようにしたという事件です。
大阪府で起こった事件ですが、当時の消防署の課長は懲戒処分となっています。
その日は、当直責任者として課長が出勤していました。
救急車を運転する男性職員が、勤務交代直前の救急出動で、9時半から予定されていた昇級試験に遅れてしまいそうでした。
そこで課長は、別の職員に30分間救急車の消毒をさせ、救急車が出動できなくしたそうです。
その間に、500メートルほど離れた場所で急病による出動指令がありました。
通常なら3分で到着しますが、別の救急車が出動し、到着に5分かかったそうです。
到着した時にはその男性は心肺停止状態。
AEDを使い救命を試みた後だったそうです。
男性は同じ日搬送先の病院で死亡が確認されました。
皆さまはどう思われますか。
「たった2分遅れただけならモンダイなし」でしょうか。
それとも、「もし出動していたら男性は助かったかもしれないのに」でしょうか。
この事件は、明るみになり、「部下に安心して試験を受けさせたかったから」と話したそうです。
ですが、組合は「通常通り出動していても影響は出なかった」と話しています。
つまり言い換えればこうです。
「どうせAEDを使用した後で、僕の消防署から救急車が出動していて3分で到着していたとしても、結果は同じだったでしょうに」
これぞまさに、開き直りです。
何を根拠にそんな無責任なことが言えるのでしょうか。
部下はきっと、昇任できたとしても一生後悔するでしょう。
課長の判断により、多くの人間を不幸にしたのです。
医療の現場で、しかも救命の現場で、こんなことが起こっていいと思いますか?
利用される方のモラルにも課題が残っていますが、救急車を出動させる側のモラルにも問題が山積みです。