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SNSとメンタルヘルス

SNSとメンタルヘルス

ソーシャル・ネットワーキング・サービス(以下、SNS)は、私たちの日常に溶け込んでおり、コミュニケーションや情報収集の手段としてなくてはならない存在となっています。しかし、その便利さと引き換えに、SNSの利用がメンタルヘルスに悪影響を及ぼす可能性があることも無視できません。ここでは、SNSが私たちの心にどのような影響を及ぼしているのか、研究結果に基づいて考えてみたいと思います。

SNS利用とメンタルヘルスの関係

ピッツバーグ大学の研究によると、SNSの利用頻度が高い人ほどうつ病を発症するリスクが高いことがわかっています。研究の対象者の4分の1以上がうつ病のリスクを持っており、SNS利用がメンタルヘルスに及ぼす悪影響が浮き彫りになりました。SNS上で他人の投稿を見て、「自分以外の人々は幸せで充実した人生を送っている」という歪んだ認識を抱くことが、うつ病の発症に寄与していると考えられています。また、SNSの利用が高頻度であるほど、そのリスクは2.7倍にまで上昇すると言われています。
さらに、SNSには自己比較の心理的傾向が深く関わっており、「他人と比較して自分を評価する」ことで、自分に自信を失いやすくなるとされています。自分に自信がない時に他人の成功や幸福な投稿を目にすると、強い劣等感や孤独感を抱くことが多く、これがメンタルヘルスに悪影響を与える原因となっています。
SNSの悪影響は、うつ病だけにとどまりません。不安感の増加や自己評価の低下、さらには社交不安障害のリスクも高めることが指摘されています。SNSを通じて他人の成功や幸せな場面を見続けることは、自分の人生に対する不満や焦りを引き起こし、精神的な疲労が蓄積。このような影響は若年層に顕著であり、SNSが若者の自己形成に悪影響を及ぼしている可能性が示唆されています。

SNSの悪影響:子どもと若者へのリスク

子どもや若者に対しても、SNSの悪影響は深刻です。日本体育大学の研究によると、SNSの利用が2時間を超えると、うつ病リスクが増加するという結果が示されています。他人の投稿を見て劣等感を感じる「社会的比較」が、子どものメンタルヘルスにマイナスの影響を与えることが確認されました。この現象は、大人と同様に、若者がSNSで見かける他者の「良い面」のみを見てしまうことが原因です。これにより、自分の生活と比較してネガティブな感情が生まれることが多くなります。
また、SNSの利用により運動や睡眠の時間が減少し、その結果としてメンタルヘルスが悪化する「置き換え理論」も提唱されています。SNSに時間を費やすことで、心身の健康に重要な他の活動の時間を奪ってしまうことが、子どもたちにとって大きな問題となっているのです。運動不足や睡眠不足は、成長過程にある子どもや若者にとって深刻な健康問題を引き起こす要因となり、さらには学業の成績にも悪影響を及ぼすことがあります。
さらに、SNSによるいじめやハラスメントも子どもや若者のメンタルヘルスに深刻なダメージを与えています。SNS上での誹謗中傷や悪意あるコメントは、リアルな世界でのいじめと同じかそれ以上に心理的な苦痛をもたらすことがあり、これが原因でうつ病を発症したり、自殺に至るケースも報告されています。SNSが子どもたちに与えるリスクは多岐にわたり、その影響を最小限に抑えるためには、家庭や学校での教育やサポートが欠かせません。

SNS利用の停止の効果

ブラジルで2024年に行われたSNS「X」の利用停止の事例※は、SNSがメンタルヘルスにどのような影響を与えるかを考える上で興味深いものでした。1か月間にわたる利用停止中、3人に1人がメンタルが改善したと回答しており、SNSから離れることが心の健康に良い影響を与えることが示されています。見たくない情報から解放され、心の負担が軽くなったという声が多く聞かれました。
一方で、SNSが情報収集のための重要なツールであることから、利用停止に困った人も少なくありません。このように、SNSにはポジティブな面もネガティブな面も存在し、それらがメンタルヘルスに複雑な影響を与えているのです。

このブラジルの事例から、SNSの利用を見直すことが必要であると感じる人も多くいました。SNSに依存していると感じている人々にとって、このような強制的な停止期間は、SNSから距離を置くきっかけとなり、自分自身の時間を再評価する機会となったようです。SNSから離れることで、読書や趣味、家族との交流など、他の活動に時間を費やすことができ、これがメンタルヘルスにプラスの影響を与えたことも報告されています。

※SNS「X」の利用停止は、偽情報の拡散が原因でした。この利用停止は、ブラジル最高裁判所が極右と見られるアカウントによる偽情報の拡散を重く見て、これらのアカウントを凍結するように要請したことが発端です。しかし、イーロン・マスク氏が表現の自由を理由にこの要請を拒否し、最終的にブラジル国内での「X」の利用が一時停止されるに至ったのです。

SNS依存とその影響

SNSの利用は、依存のリスクも抱えています。2017年の英王立公衆衛生協会(RSPH)の報告によると、SNSは若者の心の健康に対してアルコールやタバコよりも依存度が高い可能性があると指摘されました。また、SNS利用による不安感や鬱、不眠などの問題も報告されており、若年層にとって深刻な問題となっています。
SNSの依存症状は、他の依存と同様に精神的な健康に悪影響を与えるだけでなく、学業や仕事にも影響を及ぼすことがあります。SNS利用をコントロールすることが難しいと感じる場合には、適切な対処が必要です。通知をオフにする、SNSをチェックしない時間を設けるなどの具体的な対策が有効とされています。

SNS依存の背景には、SNSが提供する即時性やフィードバックの快感があります。「いいね」やコメントなど、他者からの評価がすぐに得られることで、脳内でドーパミンが分泌され、一時的な快感を得られます。しかし、これに依存すると、常に他者からの評価を求めるようになり、自分自身の価値を見失ってしまうリスクも。このような状態は、自己肯定感の低下を引き起こし、さらなる依存や不安感の増加につながる可能性があります。
また、SNS依存が進行すると、リアルな人間関係にも悪影響を及ぼします。SNS上でのやり取りに集中するあまり、家族や友人との直接的な交流の機会が減少し、それが孤独感や社会的な孤立感を深める要因となるのです。これにより、メンタルヘルスが悪化し、うつ病や不安障害のリスクが高まることが懸念されています。

メンタルヘルスを守るためのSNSとの向き合い方

SNSがもたらす影響を考えたとき、その利用を適切に管理することが重要です。ペンシルベニア大学の研究によると、SNSの利用を1日30分に制限するだけで、気分の落ち込みや孤独感が減少し、メンタルヘルスが改善することが報告されています。フォロワー数や「いいね」の数を意識しすぎないこと、そしてSNSの利用を完全にやめる「デジタルデトックス」も、心の健康を守るための有効な方法です。
さらに、SNSに依存しない生活スタイルを目指すためには、日常の中で家族や友人との時間を増やし、直接の交流を楽しむことが勧められます。SNS上での交流が孤独感を増幅させる一方で、実際の人間関係はメンタルヘルスに良い影響を与えることが多いためです。子どもの場合、家族と一緒に過ごす時間がメンタルヘルスにプラスの効果をもたらすことが示されています。
趣味や運動を取り入れることも有効です。運動は、ストレスを軽減し、気分を向上させる効果があることが知られています。SNSに費やす時間を減らし、その分をジョギングやヨガ、趣味の活動に充てることで、心の健康を維持することができます。デジタルデトックスとして、週末だけでもSNSから離れ、自然の中で過ごす時間を持つことは、リフレッシュ効果が高く、メンタルヘルスに有益です。

SNSの利用目的を見直すことも重要です。情報収集や友人との交流といったポジティブな目的に限定し、ネガティブな情報や無意味な時間の浪費につながるような利用を避けることで、SNSとの健全な関係を築くことができます。
スマートフォンに搭載されている「スクリーンタイム」や「デジタルウェルビーイング」機能を使って、SNSに費やしている時間を把握することができます。サードパーティのアプリ(例:RescueTimeやMomentなど)を利用することで、より詳細なデータを確認し、適切な時間管理を行うことが可能です。これらのツールを使って、自分のSNS利用パターンを理解し、必要に応じて時間を制限することは、メンタルヘルスの維持に非常に有効です。

まとめ

SNSは私たちの生活を豊かにし、情報を手軽に共有・取得するための便利なツールである一方で、その利用がメンタルヘルスに与える影響についても慎重に考える必要があります。SNSを適切に利用し、過度な自己比較や依存を避けることで、心の健康を守ることが可能です。SNSから一時的に離れる「デジタルデトックス」や、家族や友人とのリアルな交流を重視することで、メンタルヘルスを改善する効果が期待できます。
SNSの利便性を享受しつつ、自分自身の心の健康を守るために、どのように向き合うべきかを今一度考えることが求められています。SNSとの適切な距離感を保つことで、より健全なメンタルヘルスを維持していきましょう。
SNSを利用する際には、その目的を明確にし、自己比較や他者からの評価に過度に依存しないよう注意することが重要です。適度な利用と他の活動のバランスを取りながら、SNSと健全に向き合っていくことで、私たちの生活と心の健康をより良いものにしていきましょう。

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